2011年の東日本大震災では、全国およそ2,000か所の施設で天井が落下し5人の尊い命が失われました。
建物そのものの耐震化が進む一方、天井にはどのような対策が必要なのでしょうか。
今回は以下のポイントについて、あらためてご紹介します。
・一般的な天井に耐震性能はあるのか?
・そもそも耐震天井とは何か?定義となる3つの対策
・耐震天井と特定天井の違いは何か?
・耐震天井や特定天井に関する法律や基準とは?
一般的な天井に耐震性能はない!?
地震による天井落下の危険性とは
一般的な「吊り天井」の場合、地震が来た際には天井全体がブランコのように揺れてしまいます。
そのため揺れが大きいと天井が壁に衝突し、ぶつかる衝撃で仕上げ材が脱落したり、下地材の接合部のパーツが外れ、下地から脱落してしまったりする可能性があります。
一般的な吊り天井は地震等による横揺れに抵抗する機構がなく、耐震性能はないとされています。
地震に強い天井にするには、耐震対策を施した天井=耐震天井を構成することが必要です。
そもそも耐震天井とは何か?
定義となる3つの対策
桐井製作所では、「パーツの補強」「ブレースの設置」「クリアランスの確保」の3点の対策をすべて施した吊り天井のことを「KIRII耐震天井」と呼んでいます。
① パーツの補強
地震時に地震時の振動によって力がかかると、補強をしていないクリップやハンガー等のパーツは動いてしまったり、変形して外れてしまったりする可能性があります。
また「②ブレースの設置」を行うと、ブレースの近くには横揺れを抑える力が集中するため、クリップに補強をしないとクリップの損傷を誘発してしまいます。
耐震性の高いクリップやハンガー等のパーツを、ビスやボルトを使って固定することで、地震時に力がかかっても外れにくくすることができます。
▼「パーツの補強」に関する試験の動画はこちら
② ブレースの設置
天井を横から見ると、吊りボルトと天井面で構成された四角形になっています。
この状態では横からの力に弱く、天井全体が横に揺れてしまいます。
四角形のままでは横からの力に弱い
ブレースを設置して三角形をつくることで、地震時に横方向の力がかかった場合でも、天井の横揺れを防ぐことができます。
ブレースで三角形をつくり、横揺れを防ぐ
▼「ブレースの設置」に関する試験の動画はこちら
③ クリアランスの確保
地震によって揺れたときに周囲の壁などと衝突しないように、天井と壁の間にクリアランス(隙間)を設けます。
室内から天井を見上げると隙間が見えてしまうため、多くの場合は見切り材と呼ばれる部材で隠されています。
「KIRII耐震天井」と「特定天井」の違いとは?
上記3つの対策を施した天井を「KIRII耐震天井」と定義する一方、「特定天井」は 建築基準法施行令第39条第3項で規定された、「脱落によって重大な危害を生ずるおそれがある天井」の略称であり、『国土交通省告示第771号』で以下のように定義された天井のことを指します。
1. 居室、廊下その他の人が日常立ち入る場所に設けられるもの
2. 高さ6mを超える天井の部分で面積200㎡を超えるものを含むもの
3. 天井面構成部等の単位面積質量が2kgを超えるもの
吊り天井であって、かつ上記の3つの条件全てに当てはまるものが「特定天井」と定義されています。
特定天井は大空間 に設置される天井であり、万が一天井が脱落した場合に、人に重大な危害を与えるおそれがあるものとして、特別に対策の方法を告示で定めています。
天井材メーカーとして地震 に強い天井になるよう、3つの対策 を施した天井 を「KIRII耐震 天井」、さまざまな建物の天井のなかでも特に法令で耐震対策が義務付けられている、広くて高い空間に設置される天井が「特定天井」、と区別することができます。
「特定天井」に該当する天井は、国土交通省告示第771号に沿った方法で耐震化する必要があります 。
国土交通省告示771号での設計は下記のように定められています。
仕様ルートに書かれている、
② 天井材の緊結 ⇔パーツの補強
⑨ 斜め部材組数・配置 ⇔ブレースの設置
⑩ 壁等との間に6cm以上の隙間 ⇔クリアランスの確保
など、KIRII耐震天井の定義には国土交通省告示771号で定められた設計方法と同じ項目があります。
何に沿って計画すればよい?
耐震天井や特定天井に関する法律や基準
計画している建物の用途や天井の仕様に応じて、準拠すべき法律や基準が異なります。
■ 特定天井に該当する場合
国土交通省告示第771号で規定された方法で、耐震設計を行う必要があります。
空港やマンションのエントランスホール、音楽ホールなどの大きい空間では、特定天井の条件に該当する場合が多いです。
■ 学校
文部科学省では『学校施設における天井等落下防止対策のための手引 』をとりまとめています。
こちらでは特定天井だけではなく、特定天井の要件である「高さ6mを超える天井」、「面積200㎡を超える天井」のいずれかに該当する場合、対策が必要になります。
特定天井の基準よりも、さらに高い安全性が求められています。
■ 官庁施設
官庁施設の設計に用いられる建築設計基準(令和元年度改定版)では、天井などの非構造部材の耐震設計に関する規定が明確化されました。
地震力に対する安全性について、必要事項として7つのポイントが示されています。
▼建築設計基準(令和元年度改定版)について詳しくはこちら
庁舎・防災拠点に求められる耐震性とは? 建築設計基準改定 3つのポイント
■ 避難所や病院など、防災拠点となる建物
災害時にも本来の機能を継続しなければならない建物については、『防災拠点等となる建築物に係る機能継続ガイドライン 』を参考にすることが求められています。
震度6強以上の大地震が発生しても安全性・機能継続性が確保できる、より高い耐震性能がターゲットとして示されています。
▼機能継続ガイドラインについて詳しくはこちら
避難所・防災拠点の天井崩落を防ぐために 設計・施工のポイント
耐震天井と特定天井
定義と区別についてまとめ
KIRII耐震天井の定義や特定天井との区別、関連する法律や基準についてご紹介しました。
新築・改修いずれの場合でも、計画している建物に応じて、最適な耐震対策を検討しましょう。