建築設計基準改定のポイントを解説 -天井編-
平成28年4月の熊本地震では、防災拠点となる庁舎が使用不能となる事態が発生しました。
これを教訓とし、令和元年に国土交通省が国の庁舎を対象とする建築設計基準の改定を行いました。すでに同年7月からの設計業務に適用が開始されています。
大地震に見舞われても、地域を守る司令塔として機能し続けるために。
本特集では、庁舎の天井の耐震設計に関する規定とその対応策について全3回にわたってご紹介します。
※建築設計基準とは:
国の庁舎の建築設計を行うにあたり、基本的性能の水準を満たすための標準的な手法やその他の技術的事項を定めた基準です。地方自治体の庁舎設計についてはこれを準用することが通例です。
庁舎・防災拠点の天井に必要な耐震設計を明確化
防災拠点となる建物は、地震発生後にも継続的に使えるかどうかがカギとなります。
そのため、耐震安全性の確保がこれまで以上に求められるようになっています。
令和元年に改定された建築設計基準では、非構造部材の耐震設計に関する章が新設され、設計目標や確認方法等が明確化されました。
このなかから、天井の耐震設計に関する規定のポイントを解説します。
新設された天井の耐震設計に関する規定
※特定天井とは:
6m 超の高さにある、面積200 ㎡超、質量2kg/ ㎡超の吊り天井で、人が日常利用する場所に設置されているもの。(国土交通省平成25 年告示第771 号より)
建築設計基準を含む建築物の安全に関する法律に違反した設計および施工には、建築基準法第98 条により罰則が規定されています。
また、故意に違反した建築主も同様の罰則が科されるとされています。
POINT 1. 震度6 強以上でも脱落しない天井が目標
前提として、大地震が発生しても庁舎のすべての天井が脱落しないことを目標に掲げています。
大地震とは、最も強い震度である6 強~ 7 相当の地震のことを指します。
建築基準法では、特定天井について中地震(震度5 弱~ 5 強相当)で天井が損傷しないことを定めているのに比べると、庁舎の天井には非常に高い耐震性能が求められていることがわかります。
POINT 2. 新たに追加された仕様規定の対象となる室の例
下記A ~ C のいずれかに該当する室の天井は、構成する部材を緊結させる仕様とすることが定められました。
A. 人が日常利用する場所に設けられていて、質量が2kg/㎡超、高さが6m超の天井
エントランスホール、ピロティ等
B. 特定室の天井
知事室、議場等
C. 機能停止が許されない室の天井
避難経路、サーバールーム等
※どの部屋がB,C に該当するかは、その庁舎の各所管部署で独自に決める必要があります。
POINT 3. 耐震性のあるグリッド天井を指定
システム天井とは、天井の仕上板と天井に設置される空調や照明などの設備機器を一体にして組み立てる天井のことです。
施工が容易で、メンテナンスしやすいといった特徴があり、庁舎の執務スペースでも多く採用されています。
システム天井にはラインとグリッドの2タイプがありますが、ラインタイプは地震の揺れに弱いという点がデメリットです。
そのため新たにシステム天井を採用する場合には、耐震性を高めたグリッド天井を選択することが求められています。
仕上げ材を留め付けている部材が一方向に流れているため、地震の揺れにより仕上げ材を留め付けている部材が離れてしまい、天井材が脱落しやすい。
仕上げ材を留め付けている部材が格子状に組まれているため、地震が発生しても揺れにくい。部材の接合部を緊結させることで、さらに耐震性が高まる。
まとめ
庁舎・防災拠点の天井は改定された建築設計基準の3つのポイントに沿って耐震設計する必要があります。
次回の記事では、建物内の場所別にどのような工法の天井を選定必要があるのかをご紹介します。