平成30年、国土交通省によって『防災拠点等となる建築物に係る機能継続ガイドライン』がとりまとめられました。
避難所や防災拠点となる建物には、大地震が発生しても機能継続できる性能が求められています。
本特集では、特に学校・文化・スポーツ施設の機能継続に関わるポイントを全3回に分けてご紹介します。
天井の耐震対策が不十分だとどうなる?
機能継続できない場合に起こりうる障害の例
防災拠点となる建物は、地震発生後にも継続的に使えるかどうかがカギとなります。
天井の耐震対策が不十分だとどのようなリスクがあるのでしょうか?
天井の損傷・落下によって実際に起こりうる障害の例をご紹介します。
■ トイレが使えない
トイレや、トイレへの経路の天井が崩落すると、使用ができなくなります。
職員や帰宅困難者、避難者など、さまざまな人々が長時間にわたり使用できるトイレが限られることは、精神面や衛生面で負担となります。
■ 炊き出しに異物混入
給食センターを利用した炊き出しが防災計画に盛り込まれているケースがあります。
天井には屋根裏のホコリやチリが室内に降ってくるのを防ぐ役割があるため、天井が損傷・落下すると調理中の異物混入につながりかねません。
■ 中央管理室にダメージ発生
中央管理室では空調・給排水設備の監視、施錠の管理、館内放送の実施など、建物を快適かつ安全に利用するためのコントロールを行っています。
小規模の天井落下でも設備にダメージが加わってしまうと、機能継続に重大な影響を及ぼします。
■ 備蓄品が使えない・救援物資が届かない
天井の落下により備蓄している防災用品などが損傷する恐れがあります。
施設の地下などに倉庫を設けている場合、搬出ルートの天井が脱落すると備蓄品が一切活用できなくなってしまいます。
また救援物資の集配拠点の天井の損傷が原因となり、荷卸しなどがスムーズに行われず、物資がなかなか届かない・届けられない事態が懸念されます。
■ 通路がふさがれて部屋の往来ができない
廊下の天井が落下し避難経路がふさがれると、避難時の危険性が高まるだけでなく、円滑な救助・救命活動を妨げます。
特定室や重要室等への動線が確保できず、業務を行う空間として機能しなくなります。
エントランスや建物周辺など、通行量が多い箇所の対策も必要です。
天井をなくしてしまえばいいのでは?
安易に撤去するとランニングコスト増の可能性も
平成23年 東日本大震災での天井落下の被害を踏まえ、主に体育館で天井そのものを撤去する対策が促進されてきましたが、実際には以下のようなトラブルが発生している事例があります。
■ 音響
吸音性のある天井材が撤去されたことにより室内の音が響きすぎてしまい、会話やアナウンスが聞き取りにくくなってしまった。
■ 断熱
天井による断熱効果が失われたことで、金属の屋根材から外気温が直接伝わり、夏は暑く冬は寒い屋内環境になってしまった。
■ 空調・照明
天井の撤去により空間が広くなる分、空調や照明の効率が低下してしまった。
また消防法との関連から、天井の不燃材等を撤去する場合には消防設備の見直しが別途で必要になるケースもあります。
天井をなくしてしまうと空間の快適さや安全性が損なわれ、かえってランニングコストが高くなる可能性があるため注意が必要です。
天井の耐震対策ができていないと起こりうるリスク まとめ
天井は室内を快適かつ安全に保つ役割を担っています。
安易に撤去するのではなく、建物の構造体と天井の双方に耐震対策を施すことが、避難所や防災拠点となる建物には重要です。
次の記事では『防災拠点等となる建築物に係る機能継続ガイドライン』から、天井の設計・施工に関するポイントをご紹介します。