天井・壁・床の裏側から建物を考える

大地震時に機能継続できる庁舎であるために(1/3)

"機能継続"できないリスクとは? あらゆる箇所で求められる耐震対策

2020年7月20日
記事タグ
大地震時に機能継続できる庁舎であるために(1/3)

建築設計基準改定のポイントを解説 -天井編-


平成28年4月の熊本地震では、防災拠点となる庁舎が使用不能となる事態が発生しました。
これを教訓とし、令和元年に国土交通省が国の庁舎を対象とする建築設計基準の改定を行いました。すでに同年7月からの設計業務に適用が開始されています。


大地震に見舞われても、地域を守る司令塔として機能し続けるために。
本特集では、庁舎の天井の耐震設計に関する規定とその対応策について全3回にわたってご紹介します。

※建築設計基準とは:
国の庁舎の建築設計を行うにあたり、基本的性能の水準を満たすための標準的な手法やその他の技術的事項を定めた基準です。地方自治体の庁舎設計についてはこれを準用することが通例です。

求められる非構造部材の耐震対策とは?


「この庁舎は耐震改修済みだから関係ない」とお考えではありませんか?
実はその耐震改修は柱や梁等の構造体のみの可能性があります。
たとえ建物が倒壊・崩壊までには至らなくとも、非構造部材の損傷が発生してしまうと地震後に建物を使用できない事態につながりかねません。
非構造部材のうち、天井の耐震対策が不十分な場合に発生しうるリスクを紹介します。



※非構造部材とは:

柱、梁、床等の構造体以外の、外壁、扉、ガラス、天井、間仕切り等のこと。

■ 災害対策本部が機能不全



災害発生後に対策本部としての使用を想定している建物や会議室の天井が脱落してしまうと、本部そのものを他の場所に移転せざるをえません。
その間、被害状況などさまざまな情報の収集・伝達が停滞し、救援・復旧に向けた初動の遅れにつながってしまいます。



また移転先がもともと避難所として指定されている場合には、すでに避難している方を別の場所へ誘導しなければならなくなり、さらなる混乱が生じかねません。

■ 通路(動線)がふさがれ部屋の往来ができない




廊下の天井が落下し避難経路がふさがれると、建物内に閉じ込められるなど避難時の危険性が高まるだけでなく、円滑な救助・救命活動を妨げることにもつながります。
足の踏み場もない状態で特定室や重要室等への動線が確保できず、業務を行う空間として機能しなくなります。
エントランスや建物周辺の軒先など、不特定多数の方が立ち入り、通行量が多い箇所の対策も必要です。


また病院は待合室や病室、検査室、処置室などさまざまな部屋から構成されているため、廊下が多いという特徴があります。
思うように体を動かせない方が多くいるなか、通路がふさがれることは患者の生命維持に対する脅威となりえます。
転院などの負担を避けるためにも、建物内部の安全性確保が求められます。

■ 緊急出動や医療提供への支障


消防署や警察署の車庫の天井が脱落すると、緊急車両の出動に支障をきたしてしまいます。
また病院では天井の落下により手術等に用いる重要な設備機器が損傷することで、入院患者の安全確保に影響を与えるほか、地震による負傷者の受け入れと医療提供が困難になる恐れがあります。


地震時には平常時を上回る緊急対応が求められるこれらの施設は、安全に機能を継続できる空間として整備しておくことが必要不可欠です。

■ トイレが使用できない




トイレ内の天井や、トイレへの経路となる箇所の天井が崩落すると、トイレを使用することができなくなってしまいます。
地震後の各種対応にあたる職員や帰宅困難者、避難者など、さまざまな人々が長時間にわたり庁舎にとどまる状況の中、使用できるトイレの数が限られることは、精神面や衛生面で負担となりえます。


やむを得ず夜間でも屋外のトイレを使用しなくてはならなくなったケースでは、防犯面への心配の声も寄せられました。

■ 貴重なデータの損失




住民票、出生届、転出入届、あるいは税金の申告・納付状況など、庁舎のサーバーには行政運営に欠かすことのできない重要かつ膨大なデータが蓄積されています。


サーバールームは通常時は立ち入りが制限され、特定少数の担当者しか利用しないため、耐震対策において優先順位が低くされがちです。
しかしながら小規模の天井落下でもサーバーや関連する機器にダメージが加わってしまうと、機能継続に重大な影響を及ぼしかねません。

■ 備蓄品が使えない・救援物資が届かない




倉庫は普段人がいない部屋であるため、天井が落下しても人命への直接的な脅威は少ないといえますが、備蓄している飲料水や非常食、防災用品などに損傷を与えてしまう恐れがあります。
また倉庫からの搬出ルートの天井が脱落すると、地震発生時に備蓄品がまったく活用できない事態に陥ります。
特に庁舎の地下など、あまり人目にふれない場所に倉庫を設けている場合は、今一度不測の事態を想定した見直しを行うことが必要です。


また救援物資の集配拠点として指定している建物の天井についても耐震対策が必要です。
天井の損傷が原因となり、荷卸しなどがスムーズに行われず、物資がなかなか届かない・届けられないという問題につながる可能性が懸念されます。

まとめ


庁舎や防災拠点は、地震発生後にも継続的に使用できる建物であることが求められます。
次の記事では庁舎の設計に用いられる「建築設計基準」の改定のポイントについて紹介します。


桐井製作所 メールマガジン

よくあるQ&Aをもとに、
内装下地の設計・施工に役立つ情報をお届け!

注目記事

東京大学(駒場Ⅰ)数理科学研究科

大講義室(東京都目黒区)

東京大学の駒場Ⅰキャンパスの一角にある大講義室です。 約300名を収容する大講義室は学生の講義の...

【動画鋼製床 GTフロアー スタンダードタイプの施工手順(ベトナム語版ver.) / Quy trình tiêu chuẩn thi công sàn thép GT floor standard type

GTフロアースタンダードタイプの施工手順をベトナム語でご紹介します

建物の床仕上げをつくる工法の一つに、鋼製床があります。 住居に比べて大きい荷重がかかる、体育館や商業...

建物の【断熱】方法とは?ヒートブリッジ対策にもなる壁下地

建物の断熱方法について、「断熱材」を使った実験を交えて詳しくご紹介します

室内や車の断熱性を高めるために、天井・壁下地のDIYに挑戦される方も多いのではないでしょうか。施工方...

こんなクリップを待っていた!【新製品】Revolve(リボルブ)クリップのご紹介

少しでも施工手間や部材点数を減らしたい...! そんな思いにお応えすべく、新規金具「Revolveクリップ」を開発しました。 

今回は新製品Revolveクリップについてご紹介いたします。この業界ではそこそこ経験を積みましたが、...

お役立ちツール登録

閲覧・印刷・配布に便利なA4サイズ!お役立ち資料をダウンロード

桐井製作所 開発部 SNS情報

桐井製作所 開発部

身近にあるけどあまり知らない、天井・壁・床の施工・設計に関する各種法令や技術情報についてお届けしていきます。